脳は「指揮者」、内臓は「オーケストラ」。意志で身体を支配するのをやめた時に始まること

「もっと頑張らなきゃいけないのに、体が動かない」
「前向きになりたいのに、心がついてこない」

そんな風に、自分を責めてしまったことはありませんか?
かつての私は「意志が強ければ、どんな困難も克服できる」と信じて生きてきました。
論理的に考え、計画を立て、強い意志で自分をコントロールすることこそが、
未来を切り開く唯一の手段だと思っていたのです。

けれど、大病を経験し、リハビリの中で自分の体と向き合ったとき、
その「強い意志」が皮肉にも自分の首を絞めていたことに気づかされました。

私たちの体の中には、脳の命令よりもずっと深いところで、
命のリズムを刻んでいる「内臓ネットワーク」が存在します。
今回は、私がリハビリを通じてたどり着いた「脳(意志)」と「内臓」の、
本当のバランスについてお話しします。

▶内臓ネットワークについては下記の記事をご覧ください

目次

なぜ、強い「意志」だけでは克服できないのか

私たちは「意志が強ければ何でも乗り越えられる」と教わってきました。不調があれば「もっと気合を入れなきゃ」「もっと前向きにならなきゃ」と。

けれど、身体の深部を司る「内臓ネットワーク」にとって、
強い意志は時に、スムーズな動きを止める「ノイズ」になってしまうことがあります。

1. 脳は「わがままな指揮者」、内臓は「熟練のオーケストラ」

脳(意志)は、「もっと早く歩け」「もっと完璧にこなせ」と、
現場の状況を無視してムチを打つ、少しわがままな指揮者のような存在です。

一方で内臓は、24時間365日、
私たちが寝ている間も休まずに生命を維持している熟練のオーケストラ。
指揮者が力んでタクトを振り回すほど、奏者たちは萎縮し、
美しい音色(健康なリズム)は奏でられなくなります。

2. 「動け」という命令が、身体を縛りつける

リハビリの現場で私が痛感したのは、「動くんだ」、「動かなくちゃ」と思えば思うほど、
筋肉は緊張して岩のように固まってしまうということでした。

歩くことを忘れた筋肉たちに、動く理屈を頭で考え行動しようとしても、
身体のどこかが緊張してうまく動けないのです。
こうするべきだとか、こうでなくちゃいけないのにとか。
これは、脳の「意志」が強すぎて、内臓や自律神経が司る
「自然な反射」をブロックしてしまうからです。


ごちゃごちゃと考えることをやめて、どこかで「しょうがない」と,
意志でコントロールしようとするのを手放した時、
初めて身体が勝手に動き出すことを体験するのです。
「あれ?できた」と。


毎回うまくできるわけではありません。考えすぎる癖はなかなか抜けないからです。
それでも、大地にストンと身を預けた感覚は忘れていないので、
それを思い出す作業を繰り返すのです。

▶姿勢と迷走神経の関係について書いています

3. 内臓は「安心」がなければ働けない

脳は「論理」で動きますが、内臓は「感情(安心感)」で動きます。

私は昔から感情豊かな母が苦手で、感情的になることが嫌いでしたので、いつの間にか論理的に会話することを選んでいました。意志が強いことは自分を助ける事だと思っていたのです。

頭で考える 「頑張らなきゃ」という焦りは、
内臓にとっては「今は戦いのときだ」という信号。
戦っている時では、消化や修復といった「自分を整える機能」は後回しにされてしまいます。

意志の力は時に自分を追い込む力となってしまうのです。
意志を「自分を追い込むため」ではなく、
「身体を安心させる環境を整えるため」に使うこと。
時にはリードを、身体の内側からの力に任せる。
これこそが、本当の主従関係の在り方なのです。

▶休める状態に戻す方法については
「休めない』のは迷走神経のせい? 休息のスイッチを入れる方法を読んでみてください

4. 脳は「結果」を求め、内臓は「プロセス」を生きる

意志(脳)は常に、早く治りたい、早く歩けるようになりたいという「結果」ばかりを急ぎます。
でも、内臓ネットワークは
「今、この瞬間」の呼吸や血流というプロセスを積み重ねることしかできません。

「1mmの回復」を信じるというのは、焦る脳の手綱を緩め、
内臓が本来持っている「治る力」を信頼して待つ、という行為なのです。
結果を少し遠い未来に据えて、
1日1日変わりゆく身体に、それでよいと思えることが大切です。

おわりに:支配ではなく「対話」を

かつての私は、意志の力で身体をねじ伏せようとしていました。
それが自分で未来を切り開くことだと信じていたからです。

でも、身体は支配する対象ではなく、共に生きるパートナーでした。
もしあなたが今、思い通りにいかない身体に苛立っているなら、
一度タクトを下ろしてみてください。
そして、内なるオーケストラの音色に耳を澄ませてみませんか。

「意志のタクトを一度置いて、内臓との対話を始める。
その具体的な第一歩として、朝のルーティンや、背中を緩める呼吸法を別記事で詳しくご紹介しています。
ぜひ、併せて読んでみてください。」


この記事は、内臓ネットワークの中の「ひとつのパート」です。
全体のつながりや流れを知りたい方は、完全ガイドをご覧ください。

プロフィール

自画像イラスト

櫻井 凛
ピラティスインストラクター

寝たきりから再起。呼吸と身体を再構築する伴走者として

65歳でギラン・バレー症候群を発症し、一時は寝たきりに。しかし、長年培ったピラティスと神経系の知見を自らに注ぎ込み、再び装具をつけて少し歩けるまで回復しました。

現在は「3年後に独歩」を目標に自ら身体を再構築しながら、40代からのしなやかな心身を作るために、呼吸を通して身体と会話しながら整える方法を発信しています。

目次