お尻が働くと、膝は少し休める|ボディマップから見る臀筋と膝の関係

膝に不安があると、どうしても意識は膝に向きます。

膝が弱い。
膝がぐらつく。
膝に力が入りすぎる。
膝で踏ん張ってしまう。

私自身、ギランバレー症候群の後遺症で筋肉が動かなくなり、リハビリを続ける中で、最初に必要だったのは膝の安定でした。立つこと、歩くこと、そのために膝が少しでも支えられるようになることが大きな課題でした。

けれど、膝が少しずつ安定してきた頃、リハビリの先生からこう言われました。
「今度は、お尻に力を入れることをやっていきましょう」

そしてお尻の筋肉を少しずつ使う練習をしていくうちに、ふと気づいたのです。
「あれ、膝の負担が少し軽いかもしれない」

劇的な変化ではありません。
けれど、膝だけで頑張っていた感覚が、ほんの少しゆるんだように感じました。

今日はその体験から、臀筋と膝の関係を、ボディマップの視点も交えながら書いてみたいと思います。

ボディマップについてはこちらの記事で書いています


目次

膝だけを見ても、膝は楽にならないことがある

膝が痛い、膝が弱い、膝が不安定。

そう感じると、私たちはどうしても「膝そのもの」をどうにかしようとします。

もちろん、膝の状態を見ることは大切です。
膝の筋力、関節の安定、痛みの有無、動き方。
それらを無視してよいわけではありません。

でも、膝は身体の中で孤立して働いているわけではありません。

膝の下には足首と足裏があります。
膝の上には股関節と骨盤があります。
さらにその上には、背骨や肋骨、呼吸、体幹の支えがあります。

つまり膝は、いつも身体全体のつながりの中で働いています。

股関節がうまく使えないと、膝が代わりに頑張る。
骨盤が安定しにくいと、膝で踏ん張る。
足裏の感覚が弱いと、膝まわりで支えようとする。

膝の不調は、膝だけの問題ではなく、身体全体の「仕事の分担」が偏っているサインとして現れることがあります

臀筋は、膝を助ける“後ろの支え”

臀筋とは、お尻にある筋肉の集まりです。

代表的なものに、大殿筋・中殿筋・小殿筋があります。

大殿筋は、お尻の大きな筋肉です。
立ち上がる、階段を上る、身体を前へ進める、股関節を後ろへ伸ばすといった動きに関わります。

中殿筋や小殿筋は、骨盤を横から支えるような働きをします。
片脚で立つとき、歩くとき、骨盤がぐらつきすぎないように助けてくれます。

お尻の筋肉は、単に「後ろについている大きな筋肉」ではありません。

股関節を支え、骨盤の位置を保ち、太ももの向きを整え、膝が無理なく働きやすい条件をつくっています。

たとえば、歩くとき。
片脚に体重が乗るたびに、骨盤や股関節は小さく揺れます。
このとき臀筋がうまく働いてくれると、膝は必要以上にぐらつかずに済みます。

反対に、お尻が働きにくいと、膝や太ももの前側、腰まわりが代わりに頑張りやすくなります。

膝を守るために必要なのは、膝だけを強くすることではなく、
膝を助けてくれる場所を少しずつ取り戻すことなのかもしれません。

大殿筋は大きいのに、なぜ働きにくくなるのか

ここで、少し不思議に感じることがあります。

大殿筋は、身体の中でも大きな筋肉です。
いわゆるアウターマッスルに分類されることもあります。

それなのに、なぜ「働きにくくなる」のでしょうか。

インナーマッスルが弱ると、アウターマッスルがでしゃばる。
そんなふうに考えると、大殿筋も当然でしゃばる側に入りそうです。

でも、身体はそれほど単純ではありません。

大殿筋は大きな筋肉ですが、いつも勝手に働いてくれるわけではありません。
股関節の位置、骨盤の安定、体幹の支え、動きのタイミングが整っているときに、力を発揮しやすい筋肉です。

身体が不安定なとき、先に働きやすいのは「大きく動かす筋肉」ではなく、
「今すぐ固められる場所」です。

腰を反らせる。
太ももの前で踏ん張る。
膝まわりを固める。
足指に力を入れる。

こうした場所が先に頑張ると、大殿筋は大きな筋肉でありながら、動きの中に参加しにくくなります。

つまり、大殿筋が弱ったというより、
身体の中で呼ばれにくくなっていた
と考えるとわかりやすいかもしれません。

大きいから弱らないのではなく、
出番が減れば、大きな筋肉でも働き方を忘れていきます。


お尻の地図がぼやけると、力の入れ方がわからなくなる

リハビリの先生に「お尻に力を入れて」と言われたとき、最初は正直、よくわかりませんでした。

お尻に力を入れているつもりなのに、太ももの前に力が入る。
「お尻を使う」と言われても、どこに力が入ればよいのかがつかみにくかったのです。

筋肉は、そこにあります。
でも、脳の中でその場所の感覚がはっきりしていないと、動きの中でうまく呼び出すことができません。

これを私は、ボディマップがぼやけている状態として捉えています。

ボディマップとは、脳の中にある「身体の地図」のようなものです。

どこに力が入っているのか。
どこが支えているのか。
どこが動いているのか。
どこに体重が乗っているのか。

その感覚がはっきりしている場所は、動きの中で使いやすくなります。

反対に、長く使われていない場所や、他の筋肉に仕事を任せていた場所は、地図の輪郭がぼやけやすくなります。

私にとって、お尻はまさにその場所でした。

筋肉はある。
でも、そこをどう使えばいいのかがわからない。
だから膝や太ももの前が先に頑張ってしまう。

お尻の筋肉が弱いというより、
お尻という場所の地図が、身体の中で薄くなっていた
のかもしれません。

鍛える前に、「ここにお尻がある」と思い出す

お尻の地図がぼやけているとき、いきなり強く鍛えようとすると、別の場所が先に働いてしまうことがあります。

お尻を使いたいのに、腰が反る。
脚を動かしたいのに、膝に力が入る。
股関節を使いたいのに、太ももの前で頑張ってしまう。

だから最初に大切なのは、強く動かすことではなく、
感じること だと思います。

たとえば、お尻にそっと手を当ててみる。
横向きで、脚をほんの少しだけ動かしてみる。
立ったまま、片方のお尻に体重が乗る感覚を探してみる。
座った状態で、左右のお尻にどのように重さがかかっているか感じてみる。

このとき大事なのは、たくさん動くことではありません。

「ここが働いている」
「ここに体重が乗っている」
「今、膝ではなく股関節の奥から動いた」

そんな小さな感覚を見つけることです。

筋肉を鍛えるというと、回数や強さを求めたくなります。
でも、地図がぼやけている場所には、まず小さな入力が必要です。

身体に、
「ここにお尻があるよ」
「ここも支える場所だよ」
と、静かに知らせていく。

その積み重ねが、ボディマップを少しずつ濃くしていくのだと思います。

今日気づいたこと——膝が少し楽になった

臀筋の練習を続けている中で、ある日ふと気づきました。

「あれ、膝が少し楽かもしれない」

大きな変化ではありません。
急に歩き方が変わったわけでもありません。

でも、それまで膝がずっと前面に出て頑張っていた感覚が、少しだけ後ろへ下がったように感じました。

膝だけで支えていたものを、お尻が少し引き受けてくれた。
股関節や骨盤にも、少し仕事が分かれた。

身体の中で、そんな小さな変化が起きていたのかもしれません。

この感覚は、私にとってとても大きな気づきでした。

膝を楽にするために、膝だけを見るのではない。
お尻が働き、股関節が支え、骨盤が安定することで、膝は少し頑張りすぎなくてよくなる。

身体は、ひとつの場所だけで成り立っているのではなく、いくつもの場所が少しずつ助け合って動いているのだと、あらためて感じました。


座って過ごす時間が長い人へ

特別な病気や後遺症がなくても、座って過ごす時間が長い人は、お尻の存在感が薄くなりやすいかもしれません。

長時間座っていると、お尻は椅子に預けられます。
股関節は曲がったままになり、後ろへ伸びる動きが少なくなります。
歩く時間が短くなると、地面を後ろへ押す力も使われにくくなります。

すると、お尻は少しずつ「出番の少ない場所」になっていきます。

その結果、立ち上がるときに膝で踏ん張る。
階段で太ももの前ばかり疲れる。
歩くと腰や膝に負担を感じる。

そんな形で、身体のどこかに偏りが出てくることがあります。

もちろん、膝の痛みにはさまざまな原因があります。
痛みが強い場合や長く続く場合は、医療機関や専門家に相談することが大切です。

そのうえで、日常の中でできる小さなこととして、
お尻を「鍛える」前に、まず思い出してみることはできます。

立ち上がるとき、膝だけでなくお尻にも少し意識を向けてみる。
歩くとき、後ろ足で床をそっと押す感覚を探してみる。
座っているとき、左右のお尻にどのように体重が乗っているか感じてみる。

それだけでも、身体の地図に小さな灯りがともるかもしれません。

お尻が働くと、膝は少し休める

膝を休ませるとは、膝を使わないことではありません。

膝は、立つときも歩くときも必要な関節です。
大切なのは、膝だけに頑張らせないことです。

お尻が少し働く。
股関節が少し支える。
骨盤が少し安定する。
足裏が床を感じる。
呼吸が止まらずに、身体の中に余白が残る。

そのように、いくつもの場所が少しずつ協力できたとき、膝はひとりで頑張りすぎなくてよくなります。

私にとって、臀筋を使う練習は、単なる筋トレではありませんでした。

お尻という場所を、もう一度身体の中に取り戻していくこと。
膝だけで頑張っていた身体に、別の支えを思い出してもらうこと。
ぼやけていたボディマップに、少しずつ輪郭を戻していくこと。

そんな静かな作業だったように感じています。

「お尻が働くと、膝は少し休める」

この小さな発見は、身体がひとつながりで働いていることを、私にあらためて教えてくれました。

膝の不安があるとき、膝だけを責めなくていい。
お尻が忘れていた仕事を少し思い出すことで、身体全体の支え方が変わっていくことがあります。

身体は、思っているよりも協力し合っています。
そして、忘れていた場所をひとつ思い出すだけで、別の場所が少し楽になることがあるのです。

プロフィール

自画像イラスト

櫻井 凛
ピラティスインストラクター

寝たきりから再起。呼吸と身体を再構築する伴走者として

65歳でギラン・バレー症候群を発症し、一時は寝たきりに。
そこから、長年学んできたピラティスと身体・神経の知識を自分自身にも向けながら、現在は装具をつけて少しずつ歩く練習を続けています。

目標は、3年後にもう一度、自分の足で歩くこと。

Inner Awakingでは、呼吸と小さな動きを通して、身体と会話しながら整えていく方法を発信しています。

公式LINEでは、必要なときに身体へ戻るきっかけもお届けしています。

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