夏になると、外の草木は青々と葉を広げていきます。
強い日差しを受けながらも、根から水を吸い上げ、空に向かって伸びていく姿には、見ているこちらまで元気になるような力があります。
一方で、私たちの身体はどうでしょう。
暑さで外に出る機会が減り、冷房のきいた部屋で座って過ごす時間が増えると、身体は少しずつ内側へ縮こまりやすくなります。
肩が上がる。
首が短く感じる。
背中が丸くなる。
肋骨と骨盤の距離が近くなる。
呼吸が胸の上の方だけになる。
「身体を動かさなければ」と思っていても、暑い日は、なかなかその気になれないものです。
そんなときは、無理に運動しようとしなくてもよいのかもしれません。
まずは水分をとり、足元を感じ、草木のように静かに伸びてみる。
夏の身体に必要なのは、頑張って動くことよりも、縮まっていた場所に少しずつ空間を取り戻すことなのだと思います。
夏の身体は、思っている以上に働いている
暑い日は、じっとしているだけでも疲れます。
何もしていないように見えても、身体は体温を調節するために働き続けています。
汗をかいて熱を外へ逃がしたり、皮膚の近くへ血液を送ったりしながら、
身体の中の温度を保とうとしています。
そのため、夏は普段よりも疲れやすく、身体を動かすための余力が少なくなることがあります。
呼吸も、暑さによって速く浅くなりやすくなります。
呼吸が浅くなると、本来は呼吸の補助をする首や肩まわりの筋肉まで、いつも以上に働き始めることがあります。
すると、
「身体が重い」
「何もしたくない」
「肩がこる」
「深呼吸しようとすると苦しい」
といった感覚につながることもあります。
夏は、身体が今は少し休みたいと知らせているのかもしれません。
重力の中で、身体は少しずつ縮まりやすい
私たちは毎日、重力の中で身体を支えています。
立っているときも、座っているときも、頭や腕、胸郭の重さを、背骨や骨盤、脚が受け止めています。
身体に元気があるときは、その重さに抗いながら、自然に身体の長さを保つことができます。
けれども、疲れてくると、頭は少し前へ出て、肩は上がり、背中は丸くなりやすくなります。
胸とお腹の間がつぶれ、肋骨と骨盤の距離が近くなり、脇腹にも余裕がなくなっていき、
身体の中にあるはずの長さや空間を、うまく使えなくなることがあります。
たとえば、
- 耳と肩の距離が近く感じる
- 首が詰まっているように感じる
- 胸やお腹が押しつぶされている
- 脇腹が縮んでいる
- 背中に呼吸が入りにくい
- 身体を起こしているだけで疲れる
このような感覚があるとき、身体は重力の中で、少しずつまとまるように縮まっているのかもしれません。
青々とした草木は、水を受け取って伸びている
子どもたちは、まるで夏の草木のようです。
水を飲み、食べ、眠ると、また元気になって走り出します。
身体そのものも日々成長し、上へ、外へと、驚くほどの勢いで伸びていきます。
けれども、年齢を重ねるにつれて、水分をとって少し休めば、すぐに元気を取り戻せるとは限らなくなってきます。
強い日差しや高い気温、長く続く蒸し暑さ。若い頃にはそれほど気にならなかった夏の力に、
身体が圧倒されるように感じることもあります。
昨日の疲れが残っていたり、暑さの中で動いたあと、なかなか身体が元に戻らなかったりすることもあるでしょう。
それは、身体が弱くなったからと簡単に片づけられるものではありません。
長い年月、重力の中で身体を支え続けてきたからこそ、今の身体には、勢いだけで伸びるのではない方法が必要になっているのだと思います。
水分をとり、休み、呼吸を受け取り、身体がもう一度動き出すまで少し待つ。
子どもの頃のように、すぐ元気になれなくてもかまいません。
年齢を重ねた身体には、年齢を重ねた身体なりの、ゆっくりとした伸び方があります。
のどが渇いたと感じる前に、少しずつ水分をとることは、夏の身体が働くための大切な土台にもなります。水分が不足して身体が疲れている状態で、無理に身体を動かそうとしても、伸びやかな動きは生まれにくくなります。
まず身体が安心して働ける状態をつくる。そのうえで、呼吸や小さな動きを使いながら、縮まった場所に少しずつ空間を戻していきます。
頑張って伸ばすのではなく、内側に空間をつくる
今回お伝えしたい「伸びる」は、外から形をつくることではありません。
身体の中にある空間を、少しずつ思い出していくことです。
頭と肩の間。
肋骨と骨盤の間。
お腹と背中の間。
左右の脇腹。
股関節の前側。
縮まっている場所に、呼吸が通る余地をつくっていきます。
特に、肋骨と骨盤の間にある脇腹は、疲れたときに縮まりやすい場所です。
脇腹が縮むと、肋骨は動きにくくなり、お腹も押しつぶされるようになります。
一方で、脇腹に少し長さが生まれると、お腹や背中にも余裕ができ、背骨も上へ伸びやすくなります。
足元に支えられながら、身体の内側に空間が生まれていくのを待ちます。
それは、茎を無理に引っ張るのではなく、根から水を受け取ることで、内側から自然に上へ伸びていく草木の姿に似ています。
草木のように伸びる、小さな呼吸の時間
暑くて身体を動かしたくない日にできる、小さな呼吸の時間をご紹介します。椅子に座ったままでかまいません。大きく動こうとせず、身体の変化を待つように行ってみてください。
1.水分をひと口とる
まず、水分をひと口とり、身体の中へ水分が入っていくのを少し感じてみましょう。
ひと呼吸、ふーっと吐いてみる。
2.足元を感じる
椅子に座り、両足を床に置き、床を感じ、身体の重さを受け止めてくれていることを感じます。草木の根のように、足元が地面とつながっている様子を思い浮かべてもよいでしょう。
3.頭の上に空間をつくる
軽く顎を引き、首の後ろが延びるのを感じます。頭頂部の上に空が広がっているようなイメージです。
4.肋骨と骨盤の間に息を入れる
左右の脇腹に手を置きます。
息を吸ったとき、手の内側がほんの少し広がるかを感じてみます。右と左で違いがあっても大丈夫です。動いている側、動きにくい側を、そのまま感じます。
5.吐く息で首と肩を休ませる
息を吐きながら、肩を無理に下げようとせず、肩の重さが少し下へ流れるのを待ちます。
6.もう一度、静かに伸びる
足元には根があります。
骨盤の上から背骨が茎のように伸び、脇腹や背中が葉のように広がっていくと想像します。
上へ頑張って伸びるのではなく、下に支えがあるから、自然に上へ伸びていく。
その感覚で、静かに3回ほど呼吸をしてみましょう。
最初と比べて、
首の長さ
肩の位置
脇腹の広がり
座っている感覚
呼吸の入り方
に、少しでも違いがあるかを感じてみてください。「少し楽かもしれない」その程度で十分です。
夏は、たくさん動かなくてもいい
身体を整えることは、いつも運動量を増やすことではありません。暑い日に、無理に汗をかくほど動く必要はありません。
水分をとり、足元を感じ、縮まっていた場所に少しだけ空間を戻す。それだけでも、その日の身体にとっては大切な調整になります。
そうしながら、重力の中で縮まり続けていた身体に、もう一度、伸びやかさを思い出させてあげましょう。
夏は、青々とした草木のように、身体の中にも、小さな余白を育てていく季節です。

