若い頃は、立つことも歩くことも、それほど意識せずにできていました。
ところが年齢を重ねると、立っているだけで疲れたり、歩くと太ももや膝、腰に力が入ったりするようになります。
以前と同じように動いているつもりなのに、肩が上がる。
腰が張る。
膝のまわりに力が入る。
足が重く感じる。
そんなとき、疲れている場所をさらに鍛えなければならないと思うかもしれません。
けれども、いつも頑張っている場所は、単に弱いから力んでいるとは限りません。
身体のどこかが支える仕事を十分にできなくなった分を、ほかの筋肉が引き受けていることもあります。
年齢とともに頑張る筋肉が増えてきたと感じたら、力んでいる場所だけを見るのではなく、身体の中心である体幹が、どのように重力を受け止めているかを見直してみることも大切です。
抗重力筋とは、重力の中で身体を支える筋肉
私たちの身体には、常に重力がかかっています。
立っているときも、座っているときも、頭や腕、胸郭、骨盤などの重さを支えなければ、身体は下へつぶれたり、前後左右へ倒れたりしてしまいます。
この重力に対して姿勢を保つために働く筋肉を、まとめて「抗重力筋」と呼びます。
抗重力筋は、一つの筋肉の名前ではありません。姿勢や動作に応じて、身体が倒れないように協力して働く筋肉の総称です。
代表的なものには、
- 頭を支える首まわりの筋肉
- 背骨を起こす脊柱起立筋
- 骨盤を支えるお尻の筋肉
- 膝を支える太ももの筋肉
- 足首から身体を支えるふくらはぎの筋肉
などがあります。
立っているときには脚や背中だけが働いているように思えますが、実際には、身体の前後左右にある多くの筋肉が、小さく力を調整しながら姿勢を保っています。
抗重力筋は、身体を強く固めるための筋肉ではなく、わずかに揺れる身体を感じ取り、そのたびに必要な力を出したり緩めたりしながら、重力の中で身体を支え続けています。
年齢とともに、身体を支える力も変わってくる
年齢を重ねると、筋肉の量だけでなく、筋力や持久力も少しずつ変化していきます。また、身体が傾いたときに姿勢を戻す反応や、足元や関節の位置を感じる力も、若い頃と同じではなくなってきます。
そこへ、
- 外出や歩く機会が減る
- 椅子に座っている時間が増える
- 痛みのために動きを避ける
- 転ぶことが怖くて、動かなくなる
といったことが重なると、身体を支える筋肉を使う機会そのものが少なくなります。
使われる機会が減った筋肉は、さらに働きにくくなる。
働きにくくなると、動くことがますます大変になる。
そのような循環に入ることもあります。
けれども、年齢を重ねたら筋肉は弱る一方、というわけではありません。
筋肉は、年齢を重ねてからも、使われることで変化します。
適切な筋力トレーニングは、筋力や身体機能を改善し、加齢に伴う筋力低下の速度を緩やかにする助けになります。筋力・バランス・柔軟性などを組み合わせた運動と、週2~3日の筋力トレーニングがおすすめです。大切なのは、その人の健康状態や体力に合わせ、できることから始めることです。
年齢による変化を完全に止めることはできません。
それでも、使われる機会が減っていた筋肉にもう一度気づき、少しずつ使うことで、今ある力を保ったり、育て直したりすることはできます。
脚が弱ったときこそ、土台となる体幹にも目を向ける
脚が弱くなった。
歩くとふらつく。
以前よりバランスを崩しやすくなった。
そのように感じると、多くの人は、まず脚を鍛えようと考えます。
太ももの筋肉をつける。
お尻を鍛える。
ふくらはぎを強くする。
もちろん、立つことや歩くことには脚の筋力が必要です。脚を鍛えること自体が間違っているわけではありません。けれども、脚は身体から独立して動いているのではありません。
脚を動かす土台となっている一つが体幹です。
身体の中心が安定し、上半身の重さを支えられているからこそ、脚は前へ出たり、片脚に体重を移したりできます。
体幹が十分に支えられないまま、脚だけを強くしようとすると、すでに頑張っている太ももや膝まわり、ふくらはぎへ、さらに仕事を増やしてしまうこともあります。
脚が弱くなったと感じたときこそ、脚だけでなく、脚が動くための土台である体幹にも目を向ける必要があります。
頑張る脚を助けるために、土台となる体幹を育てる
頑張っている筋肉に仕事を手放してもらうためには、その仕事を代わりに引き受けるのではなく、身体全体で分け合える状態をつくることが必要です。
その中心になるのが体幹です。体幹を鍛えるのは、さらに頑張る筋肉を増やすためではありません。
上半身の重さを体幹で支え、脚が脚本来の仕事をしやすくするためです。
体幹が身体の重さや揺れを受け止められるようになると、太ももや膝、ふくらはぎは、身体全体を一か所で背負い続けなくてもよくなります。
大切なのは、脚を強くすることと、脚が働きやすい土台をつくることを、切り離して考えないことです。
脚が弱ったと感じるとき。
歩くとふらつくとき。
膝や太ももばかりが疲れるとき。
そんなときは、脚だけを見つめるのではなく、肋骨と骨盤の間に長さがあるか、横腹や背中が身体を支える仕事に参加できているかにも目を向けてみます。
体幹を強くするには?
「体幹を鍛える」と聞くと、お腹を強くへこませたり、息を止めて身体を固めたり、長い時間プランクをしたりする姿を思い浮かべるかもしれません。
けれども、今回お伝えしたい体幹の強さは、身体を固め続ける力ではありません。
まず必要になるのは、体幹に長さをつくることです。
体幹には、胸郭と骨盤の間にあるお腹、背中、左右の横腹が含まれます。
疲れて姿勢が崩れてくると、肋骨と骨盤の距離が近づき、特に横腹が縮まりやすくなります。
横腹が縮んだ状態では、身体は下へつぶれ、そのまま硬くなりやすくなります。
そこで、肋骨と骨盤の間に長さをつくり、その長さを失わずに身体を支えるという順に考えます。
体幹を強くするとは、その長さを呼吸をしながら保ち、重力に抗う力をつけていくと言う事。
腕や脚を動かしたときにも、すぐに横腹がつぶれたり、腰だけが反ったりしないように、身体の中心で姿勢を支える力を育てます。
体幹筋の強さや持久力が、バランスや歩行を含む移動能力と関連することも報告されています。また、体幹を含む運動によって、体幹筋力や動的バランス、機能的な移動能力が改善した研究もあります。
身体の中心から支え方を整えることは、ほかの筋肉を助けるための一つの近道になるのかもしれません。
▶身体が縮まっているときの感覚や、草木のように静かに長さを取り戻す方法については、こちらの記事でも紹介しています。

膝が痛くても、運動をすべて諦めなくてよい
たとえば膝が痛くなると、歩くことや立ち座り、スクワットなど、脚を使う運動が怖くなります。
動かすと痛いのだから、運動しないほうがよい。
膝を使えないのだから、もう身体を鍛えることはできない。
そう思ってしまうこともあるでしょう。
痛む場所を無理に使わないことは、身体を守るために必要です。でも、膝を使えないことと、身体を整える運動が何もできないことは同じではありません。
椅子に座った状態や、マットに仰向けになった状態でも、
- 横腹の長さを保つ
- 背中へ呼吸を入れる
- 骨盤の上に肋骨を置く
- 呼吸を止めずに体幹を支える
- 腕を動かしても身体をつぶさない
といった体幹を鍛える練習はできます。
体幹を鍛えれば、膝の痛みが治るというわけではありませんが、膝に大きな負担をかけずに、身体全体の支え方を育てることはできます。
運動をすべて諦めるのではなく、今の身体にできる入り口を探すことが大切なのだと思います。
※強い痛みや腫れ、熱感、急な動かしにくさがある場合は、無理に運動せず、医療機関へ相談してください。
体幹を伸ばすと、足が少し軽く感じられた
私自身、現在は、脚の力だけで身体を支えながら歩くことが難しい状態です。
それでもピラティスを通して体幹を鍛えています。
歩くときに肋骨と骨盤の間をつぶさず、横腹に長さをつくり、体幹を上へ伸ばしたまま支えることを意識すると足が少し軽く感じられることがあります。これは、脚の力だけに頼ることが難しい今の身体だからこそ気づける事なのかもしれませんが、これは、間違いなく私自身の身体の中で感じている変化です。
誰にでも同じことが起こるとは限りませんが、この経験から、体幹を鍛えることは、脚や腰に集中していた仕事を身体全体へ分け直すことなのだと感じています。
体幹の長さを保つ、小さな練習
椅子に座ったままできる、小さな練習をご紹介します。
1.足元を感じる
椅子に座り、両足を床に置きます。
足で強く床を押すのではなく、床が身体の重さを受け止めていることを感じます。
2.肋骨と骨盤の間を感じる
左右の横腹に手を置きます。
背筋を無理に伸ばさず、肋骨と骨盤の間が少し広がることを感じてみます。
3.横腹と背中へ呼吸を入れる
息を吸ったとき、手の内側が少し広がるかを感じ、のびた横腹をそのまま感じます。
もし右と左で違いがあっても大丈夫。
4.息を吐き長さを保つ
横腹の長さを感じたまま、ゆっくりと息を吐きます。
息を吐くと、肋骨は内側へ戻ろうとします。そのとき、横腹を短くつぶすのではなく、肋骨と骨盤の間にある長さを静かに保ってみましょう。
お腹だけを硬くする必要はありません。
肩や首の力を抜きながら、お腹、横腹、背中を含む体幹全体で、身体の長さを支えるように呼吸を続けます。
力いっぱい伸びるのではなく、吐く息の中でも身体が下へつぶれずにいられるかを感じてみてください。
年齢を重ねた身体にも、育て直せる力がある
年齢を重ねれば、筋力や持久力、身体の反応は少しずつ変わっていきます。
けれども、それは身体がもう変われないという意味ではありません。
使われる機会が減っていた場所へ意識を向け、小さな動きを繰り返すことで、身体を支える力を育て直すことはできます。
肋骨と骨盤の間に長さをつくり、横腹や背中へ呼吸を入れ、その長さを保ちながら身体を支える。
そうして身体の中心がもう一度仕事に参加すると、首や腰、太もも、膝まわりなど、これまで頑張り続けていた場所も、少しずつ仕事を分け合えるようになります。
年齢とともに、頑張る筋肉を増やしていくのではなく、身体全体で支えられる場所を増やしていく。
それが、年齢を重ねてから体幹を育てる意味なのだと思います。

